★学校に行かせてもらえない子どもたち

私が教員になったきっかけは、若いころ世界中を旅したことで、改めて日本という国と、日本人の素晴らしさを認識させられたからです。

その日本人として、自分も何かに貢献できることがないかと考えたのです。

そうすると、日本人を日本人たらしめている根幹には、日本の教育があること気づいたのです。

それで、私は教師の道へと進んだのです。

これは、旅が私にもたらしてくれたプラスの側面だと思っています。

ただ、旅をしたことで知ってしまったこと、旅をしなければ知らなくてすんだであろうこともあります。

旅をしたことによるマイナス要素ということではありませんが、私の力ではどうしようもないもどかしい現実に直面させられたのです。

それが子どもたちの問題です。

旅をしていると、多くの国で学校に行きたくても行けない子どもたちの姿を見かけることがよくありました。

彼らは学校に行かないのではないのです。

学校に行きたいのに、行けないのです。

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多くの場合、その原因は経済的な理由です。

まず、保護者に、子どもを学校に通わせるだけの経済的な余裕がないのです。

それだけではなく、子どもに働いてもらわなければ、そもそも家族全員が生きていけない現状があったのです。

今回はインドで出会ったある子についてお話しします。

★洗練された営業力~インドの客引き子ども~

インドの北部、シュリーナガル。

日本では「スリナガル」と呼ばれています。

スリナガルは、ヒマラヤ山脈の景色と、ダル湖という湖のほとりに広がる風光明媚な地で、国内外から旅行者が押し寄せる観光地です。

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インドで観光地といえば、しつこい客引きがセットですが、やはり、スリナガルも例外ではありませんでした。

バスを降りると、宿泊客を勧誘する多くの客引きが寄ってきます。

私は、事前に情報を得ていた安宿に泊まることを決めていたので、まとわりつく客引きを追い払っていました。

それでも、あまりにしつこく勧誘してくるので、終いにはには大声で「どけ!」と怒鳴ってしまうほどでした。

*30年以上も前の話なので、今はどうかわかりませんが。

それでも、そうやくあきらめて、ほとんどの客引きは私の周りからいなくなっていきました。

しかし、1人だけ私のそばから離れない客引きがいたんです。

それは、おそらく10歳位であろう男の子でした。

大人の客引きたちが、いなくなるまで待っていたようで、やっと取り巻きのいなくなった私に、「ハロー、フレンド」と満面の笑みで声をかけてきました。

その子は、

「あなたが泊まろうとしている宿泊所よりも、私のハウスボートの方がはるかにいいよ」

と売り込んでくるのです。

さらに、

「これは他の宿泊客には秘密ですが、あなただけスペシャルプライスで提供します」

などと畳みかけてきます。

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私は、もう泊まる場所を決めているので、他のお客さんを探しなさいと言うのですが、あきらめてくれないのです。

それどころか、今度はハウスボートの写真を私に見せてきます。

「こんなふうに、湖に浮かんでいる船が宿泊所なんだ」

「湖に浮かぶ船の宿泊所なんて、泊まったことないでしょう」

「食事も美味しいし、なんといっても湖に浮かぶ船はほんの少しだけ揺れるから、ほとんどのお客さんは夜は熟睡するんだ」

「だから朝寝坊する人が多くて、困ることもあるけどね(笑)」

朝の湖の景色は神秘的で本当に最高。きっと清々しい気持ちになれるよ」

「そんな景色の中で、湖で船に浮かびながら、朝の光を浴びてチャイが飲めるハウスボート。まるで天国だよ」

こんな洗練されたセールストークで、私を誘ってくるのです。

よどみなく出てくるセリフに、思わず聞き入ってしまっていました。

他の客引きのような強引な感じがなく、しかも笑顔が素敵で愛らしいのです。

おそらく、子どもであるという自分の強みを知っていて、その強みを最大限に活かしているのでしょう。

そうわかっていても、惹きつけられてしまうものをその子はもっていました。

★必死で生きる中で身に付けた英語力

さらに驚いたのは、その子の英語力です。

インド特有のなまりのある英語ではなくて、本場イギリスの綺麗で、流暢な英語を話すのです。

私は思わず、どこで英語を習ったんだと聞きました。

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すると、私は学校に行っていないので、英語は自分で学習しているのですという答えが返ってきました。

平日のこんな時間に客引きをしているのですから、学校に行ってはいないであろうことは何となくわかっていました。

家計を助けるために、働いていることは明らかです。

客引きとして働いている間に、英語を習得していったのでしょう。

「生きる力」がすごすぎです。

この子のあきらめない気持ち、そしてそのセールストークに感心すると同時に、

学校にも行かず、おそらく家計を助けるためであろう客引きをしている姿に、次第に心が動き始めている自分がいました。

結局私は、その子の家族の経営するハウスボートに3泊し、大変良くしてもらったので、わずかですがその子にチップをあげました。

お父さんお母さんには内緒だよ。

あなただけ使いなさい。

そう言って手渡したのですが、その子から帰ってきた言葉が、私には衝撃でした。

その子は、

「このお金は、いつも僕に優しくしてくれるお父さんとお母さんにお礼として渡すよ

と言ったのです。

学校にも行かせてもらえず、働かざるを得ない状況にある子どもの口から、両親への「お礼」という言葉が出てくる。

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正直、泣けてきました。

★現在のインド

さて、この話は30年前のインドでのことです。

で、現在はどうなのか調べてみました。

現在、インド政府は子どもの就学率や識字率を高める計画を州政府とともに進めてきています。

まず、初等学校の数を増やし、6歳から14歳までの子どもへの無償の義務教育を定める法律を2009年に成立させています。

その結果、学校の数は倍増し、指定カースト(ダリット)の子どもの入学者数は、30年前と比べて初等学校で 2.3 倍、中等学校で6倍に増えたとのこと。

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ダリットとは、インドやネパールのカースト制度の最下層に位置する被差別カースト、と呼ばれる人々のことです。

おかげで、初等学校における就学率は99%まで改善されていいるとのこと。

これは喜ばしいことです。

但し、学年が上がるにつれて就学率は低下する傾向にあるらしく、やはり家計の経済事情が影響しているとのこと。

まだ、手放しで喜べる状況ではないですね。

日本の教育についても、いろいろ課題はあります。

しかし、総合的な教育の質は、世界的にも高いレベルにあると、私は考えています。

教育の質が担保されているからこそ、日本では礼節が重んじられた、秩序だった社会が形成されている。

そう私は確信しています。

世界中に日本の教育の良さが伝われば、子どもたちももっと幸せになれるはずです。

あの、流ちょうな英語を話すハウスボートの子どもも、今は40歳くらいになっているはずです。

幸せに生きてくれていればと願っています。

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